北京公演の大成功に思うこと
                                       
  常任指揮者 森田敏昭

大成功の要因

 今回の北京放送局スタジオにおける演奏は、まず大成功を収めたと言ってよいでしょう。わが白門グリークラブが海外公演において全く悔いのない演奏ができたのは、おそらく初めてではないでしょうか。今回の成功の原因は、大きく分けて二つあると思います。
 まず第一に白門グリークラブの実力が、ここ数年の間に格段に向上したことです。当日は朝8時にホテルを出発して万里の長城に登り、ホテルに戻らずそのままスタジオに直行し、発声練習もなしのほとんどぶっつけ本番で、2時間にも及ぶ公開番組の収録をしました。声楽的に考えたらおよそ無謀とも言えるハードスケジュールにも拘わらず、本番では迫力十分にしかも細部まで神経の行き届いた、完成度の高い演奏をすることができました。昔は本番直前まで駄目押しの練習を続けていたことを考えると、隔世の感があります。初めて臨む音響空間の特性にすばやく反応してハーモニーをうまくまとめるという柔軟性も、場数を踏んで身に付けた知恵といえるでしょう。年齢による衰えなど微塵も感じさせませんでした。
 第二は、北京放送局の企画の素晴らしさです。ただのスタジオ収録ではなく、「リスナーの集い」という場を与えてくれた配慮に感謝したいと思います。日本語放送は海外向けだと思っていたところ、中国国内にもリスナーがいて、しかも中学高校ぐらいのごく若い人達が300人もスタジオに集まってくるとは思ってもみませんでした。あの北京の若者達は、白門グリークラブの歌を聴いたことを生涯忘れず、日本への親近感を持ち続けてくれると思います。日中友好のためにいささかの貢献ができたかな、と思いました。
(写真:和やかな雰囲気で進む公開録音)


選曲の妙、大庭さんの伴奏
 
 演奏を成功に導いたその他の要因としては、まず選曲のよさがありました。いえ、我田引水ではありません。最近あちこちのお座敷で歌ってきた曲を、大した考えもなく一冊にまとめてみただけの事ですが、たまたま北京放送の企画にうまく合致して演奏効果をあげました。日本歌曲、中国の歌、外国の歌(ロシアと韓国)、日本民謡という、四つのジャンル分けもよかったと思います。中国の歌の選曲については毎度のことながら陳真さんの読みの深さに感心させられます。
 客席の最前列にご家族の皆さんが13人も並んでいたのは、誠に心強い限りでした。聴衆の中によき理解者が大勢いるということは、ステージに立つ者にとっては大きな安心感となります。
 ピアニストの大庭直子さんも頼もしい働きをしてくれました。あの年代物のピアノを弾きこなして、立派な演奏をしたのはみごとな腕前です。
(写真:大庭直子さんと歩く筆者)


若い助っ人達
 トップテナーの若き助っ人達の活躍ぶりも忘れてはなりません。間際になっての参加決定で練習時間が少ないにも拘らず、柔軟な声を武器に主戦力となり、演奏の充実に貢献しました。田中宏君はその翌日にとんぼ返り帰国という、極めて多忙な中の出演協力ありがとう。また現役学生の須永紀彦君は、大先輩達の活躍を終始目の当たりにして何かを感得してくれたのではないかと思います。我々にとっても若い諸君との旅は、白門グリークラブの将来に希望をつないだような、うれしいひとときでありました。
 そして最後に北京放送の若いアナウンサー、王小燕さんの溌剌とした司会進行と、絶妙なコンビとなった宮本君の名司会ぶりも、演奏会を盛り上げるのに大きな役割を果たしました。
 私はただ、山台の上に堂々と三列に並んで歌うグリーメンを見上げて、満足感に浸りながら踊っているだけで、指揮者冥利に尽きる幸せを感じておりました。
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