中国演奏旅行は、「アイドル・ハギちゃん」様様でした

                            セカンドテナー 志田雄司

編集者注:出発前の部屋割りには苦労しました。今回は夫婦参加が12組もいたのですが、単身参加も10名近く。前回のハワイ演奏旅行で、ここで話題になる件の氏と同室となり鬱病寸前までいってしまったT氏を考えると、またお願いしますとは到底言えません。
 困惑している実行委員たちに、見かねた単身参加の志田さんが「よし!おれが一緒になる。面倒見るよ!」と言ってくれたのです。
 危機を回避してほっとした周りの団員からは同情されるやら、感謝されるやら。でも当のハギちゃんは知ってか知らずか、他人の心配などどこ吹く風というありさま。それで団員達から、「志田さん、ご愁傷様」となったわけです。) 以前の氏の行状、それに今回の部屋割りにかかわることを頭に入れてお読みください(笑)。

←いつも泰然自若の志田さん

深夜の作業
 北京で一夜明けた朝、万里の長城へ向かうバスで宮本氏から早速の挨拶がありました。この日の午後は北京放送での公開録音が控えていました。
 「昨夜はよくお休みになれましたでしょうか。聞くところではある人がこの期に及んで楽譜を整理していたそうです。B5からA4サイズに拡大した楽譜の糊付け貼り合わせをするのにデスクの明かりもつけずに暗闇の中でゴソゴソ、バリバリと夜中の1時半までやっていたとのことです。これだけ言えば団員の皆さんは、それが誰のことかおわかりと思います。ちなみにバリトンの人です」
 バスの中はどっとあちこちから笑い声が起こり、様々なジョークが飛び交い、にぎやかで明るい雰囲気になりました。そのうちに自分の事と気がついたのか、「拡大コピーは桶川でやってきたし、糊は持ってきたんだよ」、と名乗りを上げたのが件(くだん)のハギちゃんでした。
 「そんな時間があるんなら、ちゃんと暗譜して来いよ」とのキツーイ声もあがりました。
 実はアイドル・ハギちゃんが登場したのはこれが最初ではないのです。

志田さん、ご愁傷様
 その前日の朝、成田空港の集合場所で談笑していると、柴田夫人(右写真)が話の中へ入ってきて曰く、
 「志田さん、ご愁傷様、ってどういう意味なんですか?」 どうもどこかで誰かが話しているのを聞いていたようです。でもまじめに真正面から質問されると面食らってしまいます。
 「私がある人と同室になることを面白くがって、冗談を込めて皆が言っているんですよ。彼はすごく純な人だけど集合時間になると必ずいなかったり、エレベーターの中でも食事の時でも誰彼なく声をかける人で、相手が外国の人でもそうですから、又ハギワラ外交をやっているよ、と言われたりしましてね…」と、控えめに説明していると件の奥方はようやく訳が分かったらしく、説明の途中から笑いをこらえてお腹を手で押さえておりました。
 北京到着後のホテルの部屋では全て点検作業を彼がしてくれます。実行委員で旅行会社勤務のM君が「部屋に入ったら、照明のスイッチやトイレの水がちゃんと流れるかを最初に確認すること」、と言っていたからです。まず初日、彼は動き回り、「点検全てOK」と宣言。 ところが机の照明スイッチはどこだと言うので「枕元にスイッチがあります」と言って教えてあげなければならず、一体どこを点検したのやら。私がシャワーを使うとバスタブの排水が流れません。点検したんじゃなかったの?と聞くと、「そこまでは点検しないよ」と言います。
 それに「ボーイを呼んでスイッチを教えてもらったけど、枕元にはバスと書いてあるからおかしいよ」とのことでした。また上海のホテル(王宝和飯店)では部屋に入るときカードを差し込もうとして苦労していました。バスの中でカードをセンサーに触れてくださいと、ガイドさんの説明があったのを全然聞いていなかったのです。

エピソード2題 (下の写真は2日目朝、万里の長城。頭と首周りだけ防寒のハギちゃん)
 
 エピソードを二つだけ付け加えます。(この他にもたくさんあるのですがね)
 毎回の食事はその土地の美味しい中華料理でした。彼が相変わらずのお喋りに夢中になり、皿の上には取ってきた料理が山になったままなので、西山氏が「それではまるでお供えのようだ。ハギちゃん、5分間だけでも喋らないで食べろよ」、と言うとやにわに食べ始めましたが、30秒も持たずに「なんでこんなに取ってしまたのかな」、と喋りだして大笑いになっていました。 
 上海から帰国の朝、早めにチェックアウトを済ませてホテルのエントランスホールで団員達と話をしているところにワイシャツ姿の彼が走り寄ってきました。何ごとがあったかと思いましたら、「いや、志田君、ここにいてくれてよかった。ルームカードを貸してよ。ドアーが閉まってしまって入れないんだ」
 これは今回の旅行で2回目です。
 帰国の途に就く上海甫東國際空港では、参加者中最もお若くていらしたと思われる辰巳夫人が「ハギちゃん・・」と何気なく言っていたので、今回の旅行で初めて会った彼女も、おそらく本名を覚えないで「アイドル・ハギちゃん」になっていたのでしょう。

北京語は上海では通じない?
 空港でのエピソードをもうひとつ。
 帰国の全日空機搭乗を待つ間、ハギちゃんが私たちの話の中に入ってきて、こう言うのです。
 「住んでいる桶川市の市民講座に中国語会話があるんだよ。今回のために備えて勉強してきたんだ。」
 「へえ、どのくらい勉強したんですか」と誰かが聞きました。
 「2日間かな。2回通ったんだ」
 いかに語学の天才でも、たった2日間の講習であの中国語が話せるわけがありません。
 「かなり覚えたんだよ。でも北京語だからね、北京では通じたんだが、やっぱり上海ではほとんど通じないんだね」
 何事かと聞いていた周りの団員たちはその瞬間、床に倒れこんでしまいました。北京語は中国全土の公用語ですよ。

 旅行期間中ハギちゃんには雰囲気をおおいに盛り上げていただき、本当に「様々」です。ありがとうございました。


編集者からも、誰も知らないエピソード提供
 ハギちゃんはトイレの近い人です。帰国の日、ハギちゃんの乗った1号車のバスは編集者の乗った2号車よりより早めに上海國際空港到着。私がバスの中に忘れ物がないか確認して最後に空港のターミナルビルに入ると、女のけたたましい中国語が響くと同時にトイレからハギちゃんがショルダバッグを抱えて飛び出してくるところに出くわしました。
 私の姿を認めたハギちゃんは一目散にこちらに走ってきて、
 「この空港は女性トイレしかないんだね!」と言うのです。
 ものの20分ほど前に昼食のレストランでトイレを済ませたはずなのに、またトイレですか? とは言うもののしょうがない。
 「ダメですよ、間違っても女性トイレに入っちゃ・・・」
 「でも、ないんだよ。男性用が」と真剣な眼差しです。
 んなわけないでしょ! どの空港でも男女トイレ入口は隣同士か、近くにあるものです。彼と一緒に、今たたき出されたばかりの女性トイレを通り過ぎても確かに隣には男性用がありません。でも先を見ると20mほど先に入口があるではありませんか。
 「ハギさん、ほら、ここ! 女性用トイレしかない空港などは・・・」 もう彼の姿は中に消えていました。
 緊急時でも手近なところに飛び込むのはやめましょうね。
(右写真:右側は同期の柴田鉄義さん。ハギちゃんは「いつも迷惑をかけてすまない」とでも詫びているのでしょうか。でもこの写真は成田から到着したばかりの北京・故宮博物院ですがねえ)

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